「ニコニコ生放送」(2011年9月)

ニコ動のニコ生

動画投稿サイト「ニコニコ動画」(ニコ動)の「ニコニコ生放送」の注目度がアップしている。

民主代表選を生中継

先の民主党代表選当日。会場にはテレビ各局の記者やカメラに交じりニコ動のスタッフ3人がいた。カメラとパソコン1台ずつで演説や投開票の様子を現場から中継した番組は、その時間に約17万人が視聴した。

福島原発の実態

5月には「これが福島原発の実態だ!東電現場からの告発」という番組も配信。ジャーナリストの津田大介が、作業員の親類から入手した原発内部の写真を使って事故の実態に迫った。番組を見た人は約9万人。テレビ視聴率の1%(関東地区でいえば約17万7千世帯)にも満たないが、「ツイッターなどで情報が広がるため、数字以上の影響力がある」と津田は話す。

放送法に縛られない

放送法などに縛られないため、企画から配信まで手軽にできるのはネットゆえの強みだ。原発番組も、配信されたのは津田が企画を提案した翌日深夜だった。

一般の人の投稿動画が中心だった

ニコ動で配信される動画はもともと、一般の人の投稿動画が中心だった。テレビ番組など著作権を侵害したものも少なくなく、ネット好きのオタクが集まる場とみられがちだった。

ニコ生スタートは2007年12月

ニコ動がテレビ局のように自ら制作した番組を配信する「ニコニコ生放送」(ニコ生)を始めたのは2007年12月。10年11月には小沢一郎民主党元代表がテレビへの露出を抑える中で出演、約18万人が視聴した。震災特集も含め、硬派番組は多い。

自社制作のミュージカル

軟派系も、自社制作のミュージカルや、ものまね芸人のライブなど、幅広く中継している。

川上量生・ドワンゴ会長

ニコ動トップの川上量生・ドワンゴ会長は「動画サイトである以上、開かれた場にしたかった。ネットと現実世界との断絶も広がっており、溝も埋めたかった」と話す。

ユーザー制作の生放送は1日10万番組

公式生放送は今や月に600本。ユーザー制作の生放送は1日10万番組に及ぶこともある。会員も2千万人を超えた。20代の約7割が会員とのデータもある。

人気の秘密は、視聴者のコメントを画面に書き込める「対話機能」だ。ニッセイ基礎研究所の久我尚子研究員(消費者論)は「20代以下の世代はマスメディアより知人友人の意見を重視する傾向がある。コメントを通じて、井戸端会議感覚で楽しんでいる」とみる。

既存メディアの情報に対するセカンドオピニオン

奥村信幸・立命館大准教授(ジャーナリズム論)は「既存メディアの情報に対するセカンドオピニオンを提供している」と分析する。例えば東電会見が丸ごと中継されることで、既存メディアが何を質問し何を報じなかったか視聴者がチェックできるというのだ。

ニコファーレでAKB48のライブ

ニコ動はこの夏、専用ライブホールを東京・六本木の伝説的ディスコ「ベルファーレ」の跡地のビル内につくった。その名も「ニコファーレ」。こけら落としのAKB48らの公演はネットを介して約67万人が視聴した。会場の定員は380人。でも、ネット視聴の「参加者」のコメントが周囲の壁に映し出され、現実とネットが一体化したかのようなうねりを生み出す。

1990年代のテレビの深夜番組のような熱気

ニコ動との連携もしてきた、フジテレビの福原伸治・情報企画部長は「視聴者を驚かせ面白がらせることを純粋に追求していた1990年代のテレビの深夜番組のような熱気がある」と評価。その上で「報道番組で情報のウラ取りをどこまでしているかなど、まだ信頼性の面では課題もある」と指摘している。

ニコニコ動画

一般の人が投稿した動画や、サイト側が制作した生放送の番組を、インターネット経由でパソコンや携帯電話で視聴できる動画投稿・共有サイト。誰でも意見や感想をコメントとして書き込むことができ、コメントは画面上を流れていく。無料の会員制サービスで、会員はのべ約2253万人。回線混雑時に優先視聴できるプレミアム会員(月額525円)は約132万人。

ニコニコ動画やUSTREAMでライブ中継(2010年5月)

ネットによるライブ映像配信

ネットによるライブ映像配信が活況を呈する理由の一つは、配信者と視聴者がリアルタイムでコミュニケーションできることだ。

ニコニコ生放送の独自のコメント機能
映像上にテロップのように流れる

USTREAMの場合はTwitterとの連携機能を備える。USTREAMの配信ページにTwitterのユーザー名とパスワードでログインしてコメントを投稿すると、そのページとTwitterの両方にコメントが表示される。ニコニコ生放送の場合は独自のコメント機能を搭載。ユーザーが投稿したコメントが映像上にテロップのように流れる。

視聴者が感想や意見を投稿

これらの機能を使うことで、視聴者はライブ映像を見ながら感想や意見を投稿したり、ほかの視聴者のコメントを読んだりできる。一方、配信者も配信中に視聴者からコメントを募集したり、それに反応したりといったことができる。

ユニクロがUSTREAMやTwitterで情報発信

これは企業にとって大きな利点だ。USTREAMやTwitterで情報を発信したユニクロは「これまではアンケートなどを実施しなければ分からなかったユーザーの声を即座に確認できた」(グローバルコミュニケーション部)と手応えを感じている。

ソフトをユーザーと一緒に開発

中には、一歩踏み込み、USTREAMをユーザーとのコラボレーションの場にしようとする企業も出てきた。ソフトウエア開発を手掛けるデジタルステージは音楽に合わせて映像を作成するソフト「motion dive 5」を開発するに当たり、社内会議を定期的にUSTREAMで公開。ユーザーから意見や要望を集めている。同社の平野友康社長は、「今は商品だけでなく、周辺情報や提案も含めて提供する時代。ソフトをユーザーと一緒に開発し、その過程をエンターテインメントにすることで、新たな価値になるのではないかと思った」と話す。実際、ユーザーの反響は大きく、多いときには5万4000ものユーザーが中継を視聴。その半数は同社を知らないユーザーだったという。

ニワンゴの杉本誠司社長

これらのライブ映像配信サービスは、誰もが低コストで利用できることも大きい。USTREAMの場合、配信料は無料。ライブ中継に必要なソフトも無償で提供している。ユーザーはWebカメラさえ用意すればすぐにライブ映像を配信できる環境だ。ニコニコ生放送は有料会員登録が必要だが、利用料は月額525円と安い。「個人で歌や踊りを披露したり、学校の授業を公開したりする人もいる」(ニワンゴの杉本誠司社長)。

動画というよりライブイベント

こうしたネット上のライブ映像について、ニワンゴの杉本社長は「動画というよりもライブイベント」と説明する。同じときに同じ場所(Webサイト)に集まり、同じものを視聴する。そこで、ユーザー同士がコメントを交わす──動画の中身以上に、その場の空気や感情の共有を楽しむ性格が強い。テレビや既存の動画配信サービスよりも“生”のコンサートやイベント、ストリートライブに近いといえる。

「荒らし」の懸念

懸念されるのは「荒らし」などの問題だ。不特定多数のユーザーが“生”で参加するからこそ、トラブルが発生する可能性は避けられない。これに対しては、「ユーザーのモラルを啓蒙していくしかない。問題があったときは、通報してもらう仕組みも用意している」(ニワンゴの杉本社長)。ユーザーによるライブ中継、リアルタイムでのコミュニケーションはこれまでになかったもの。だからこそ、活用法はもちろん、モラルについても配信側、受け手側双方が模索しながら発展させていくのだろう。